メタ読みニンジャスレイヤー

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ニンジャスレイヤーのハードSF性

このエントリは以前にtogetterで纏めたもののさらに纏めです。ニンジャスレイヤーのハードSF性について〜言語SFと認識宇宙論とイルカとハーフブッダ〜 - Togetterまとめ

ニンジャスレイヤーが高度なメタフィクションであり、様々な場所に暗喩を含んでいることは明らかなのだが、3部で顕著なのがハードSFの中でも人間原理、言語SFといったジャンルの要素である。
この影響は特に脳内に翻訳装置を埋め込んだガイジンであるジェイクが登場するエピソードに特によく見られる。
クソ装置回ことマグロ・サンダーボルトや、ブッダ逮捕、カンゼンタイがそれだ。

人間原理についてざっくりと説明すると、世界というものは人間が認識して初めて存在する、という考えである。
これは元はイデア論とかの哲学から始まってるのだろうが、SFにおいてはグレッグ・イーガングレッグ・ベアなどが使用した概念で、極まった知性が物理法則すら書き換えてしまう、というギミックとして使われる。
ニンジャスレイヤーにおいて、個人が認識する世界、というのはローカルコトダマ空間や「心の王国」という単語を使って触れられる。

通常、これらは人によってそう極端に違うものではない。人の想像力は無限ではなく、現実とかけ離れた情景は簡単に想像できないからだ。


ではそこで現実や周囲の人間と極端に違う「世界」を持つ存在が出現したらどうなるだろう。
通常なら単に「狂った」として処理される筈だ。
ハシバがラリった結果見たイルカやヤマヒロの見たオーディン神がそれだ。
だが、違う世界の持ち主が強大なカラテの持ち主ならば話は異なる。
ここで言うカラテとは外部への影響力のことだ。
イルカの幻覚やオーディン等、自分にしか見えていない幻覚は単純に考えて狂った結果であるが、その幻覚を他人と共有するようになればもう幻覚とは呼べない。
その幻覚が他人を殴ったり殺したりすれば尚更だ。

この「幻覚を他人と共有する」というのはコミュニケーションの本質であり、コトダマの役割である。
カラテ、暴力も精神を現実に具現化するという立派なコミュニケーション手段の一つだ。
この自分だけの世界、純然たる妄想を他人と共有して現実を書き換えてしまう存在こそがニンジャなのではないか。

このコミュニケーション、という話の中で重要なのが言語SFと呼ばれるジャンルである。
言語SFとして有名なのは伊藤計劃の描く虐殺器官屍者の帝国などが挙げられる。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)


虐殺器官は極論するとクローン兵のオーダー66とかキョジツテンカンホーとか鹿を引き寄せる特定周波数テクノみたいなのが人間にあって、それを聴くと殺人をしたくてしょうがなくなる、みたいな話なんだけど、重要なのが言霊は感染する、言葉を知っている側が知らない側を命令できる、という点である。

3部ではアルゴス、ペケロッパ、ストライダー、ジェイク等、「違う言語」を使う集団がよく出てくる。
言語が違っていなくても、コミュニティが閉鎖的になると独自の作法、プロトコルが発生し、外部からはコミュニケーションを取るのが困難になる。
ヤクザ天狗は独自の世界観を持っているため「狂っている」のだが、ヤマヒロはピンクの光を見た瞬間、彼を理解し、世界を共有してしまった。
だから彼はもう元の世界には戻ってこれない、天狗の国へ行くしかなかったのだ。


順列都市〔上〕

順列都市〔上〕